第140回芥川賞受賞『ポトスライムの舟』
2009/02/01
この作品の主人公であるナガセは、29歳。就職氷河期に入社した会社でひどいモラルハラスメントにあい、働くのが怖くなってしまったという経験をしています。
現在の主な仕事は、工場で乳液のビンのフタをしめたあとひっくり返し、液漏れしないかどうか確かめること。それに加えて、友人のヨシカがひとりで経営するカフェの手伝い、パソコン教室の講師などを掛け持ちしている。働き者です。
人間関係が良好な今の職場は居心地がいい。でも、あまりの薄給に気持ちが折れることもある。そんなとき、ナガセは工場で、NGOが主催する世界一周クルージングのポスターを見ます。船に乗るのに必要な費用は163万円。ナガセの工場での年収とほぼ同額でした。
生きるために薄給を稼いで、小銭で生命を維持している。そうでありながら、工場でのすべての時間を、世界一周という行為に換金することもできる。時間をお金に換金し、お金をまた別の何かに換える。そのお金を生命を維持するために使う1年と、世界一周に使う1年ではどう違うのか。ナガセは工場の給料に1年間手をつけないで、残しておくことにするのです。
読者はこのあたりで、思わず自分の年収と、それがどんなものや時間と等価になるのか考えてしまうでしょう。難しい言葉は使われていないので、すっと読めますが、書かれていることは深い。津村さんの作品全体にいえることだと思います。
![群像 2008年 11月号 [雑誌]](http://ecx.images-amazon.com/images/I/51mmdScm6ML._SL160_.jpg)
<DATA>
タイトル:『群像 2008年11月号』
出版社:講談社
価格:920円(税込)
『ポトスライムの舟』が掲載された号です。単行本は未刊(1/15現在)引用元
http://allabout.co.jp/interest/book/closeup/CU20090115B/